私は北海道の酪農業を営む家に生まれました。
物心ついたときには、牛のお世話を手伝っていたと記憶しています。
小学校高学年のころ、牛の乳をしぼる仕事を教えてもらいました。
牛の乳をしぼるには、
感覚を集中させなければ上手くいかず、
しかも危険がともなうので、難しい仕事でした。
4本ある乳首に、ミルカーという、
乳をしぼり出す器具を装着させるのですが、
牛の乳房というのは非常に大きく、
下にもぐりこもうとすれば、
牛のキックを顔面にくらう恐れがあるので、
なんとなく手探りで乳首の位置をさぐります。
ミルカーをつける角度が悪いと痛がって、牛が蹴ってきます。
牛は蹄があるので、もろに蹴りをくらうと骨折します。
蹴られないために、体の一部を牛にぴったりつけて、
牛の呼吸を感じながら作業をします。
牛の呼吸があらくなったと感じたら、
すぐ脚の付けねを押さえれば、
牛は蹴ることができません。
私の父は、牛の脚の付けねを、
頭で押さえつけて蹴りを止めるので、強者です。
そんなふうにして養われた、
「生き物の呼吸をよむ」という技が、
今なんとなく、マッサージの仕事に役立っている気がします。
人も、気持ちいいところに入ったり、痛みを感じたりすれば、呼吸が変化します。
呼吸でお腹がふくらむ様子を見ていれば、
マッサージがうまくいってるか、
軌道修正したほうがいいか、わかります。
経験って、意外なかたちで活かされることもありますよね。